営業の仕事は多種多様ですが、それでも「ここしかこの営業の仕事をしていない」ところはなく必ず同じ仕事をしている企業が存在します。そのような企業は他から見ればライバルと称するところであり、同業他社として競争をして競い合っているのです。この競争があるので企業は向上心を持てて成長していくことができるといえます。
営業は転職を考えることが珍しくない職種ですが次の転職も営業をするとなれば自分が仕事をしていた企業以外、同業他社も選択肢として入るでしょう。実際に同業他社の方が比較をして待遇がよくなるというケースもあるため、選ぼうと考えても無理はない話です。
しかしこの同業他社への転職は安易に行っていいものではありません。転職した後の支障による話だけでなく、社会的に危険な状況に陥ることもあるからです。実際に同業他社への転職がありかなしかをその危険と一緒に見ていきましょう。
最初に禁止されているかどうかの確認を
同業他社への転職を視野に入れた場合には、まず転職が「問題なく」できるかどうかの確認をするようにしましょう。実はこの同業他社への転職においては就業規則において競業避止義務というものが定められているケースがあるからです。
この競業避止義務は自分の企業に所属している従業員が競合する、ようするにライバルである他の企業へ就職したり自分で競合するのを目的で会社を設立してはいけない決まりとなっています。これを破った場合には所属している企業から訴えられる等、何かしらのペナルティを負うことになってしまうのです。
損害賠償の請求がされるケースもあるため、そのケースの場合には資金面に大きなダメージを受けてしまいます。資金面はもちろんですが「規約に違反した」という事実が残るため転職の際にはその情報がマイナスとして作用することもあるのです。特に信頼が大事な営業となれば尚更のことでしょう。
この規約に違反しないために就業規則に退職した後の競業避止義務に関する記載がないかどうかを確認しましょう。あった場合でもどのような行為が違反に繋がり、どこまでであれば行動しても問題ないか理解すれば転職もそのラインを考えて進めることができます。
企業によっては誓約書等の書類にサインを求める場合もあります。サインを自分の意志でする必要があるので競業避止義務に違反しないように意識できる可能性が高いです。しかしこの書類の場合にはその内容に不当がないかどうかを確認するのが重要となります。
企業によって内容が異なりはしますが、こうした競業避止義務を定めている場合はその代わりに別の方面でメリットとなることが書かれているのが基本です。逆に言えばそれが書かれていないということはこちらを一方的に縛るものとして合理性に欠ける問題のある誓約と判断されます。
サインをしてしまえばその内容で了承したとして今後の裁判において不利になってしまうのは自分です。サインする前に内容が不当でないかを確認する必要がありますが、自分で判断するのが難しい場合は弁護士に相談するのがいいでしょう。
個人で判断する場合には先の定められる代わりのメリットがあるかどうか以外にも
- 競業避止義務の期間が3年以上長期間に設定されていないか
- 設定されている範囲が必要以上に広くないか
- 同業他社へ該当する営業の範囲が不自然な程広くないか
といった面を確認するのがいいでしょう。
気をつけたいのはこうした競業避止義務は転職に限った話ではなく、兼業といった別の行為についても該当するケースがあることです。転職時に気をつけるのはもちろんですが、それ以外でもしてはいけない行為があるかどうか確認しておきましょう。
営業はスカウトとヘッドハンティングが多い世界です。それらで同業他社に引き抜かれた場合でも当然のことながら違反は違反となってしまいます。こうしたケースだと競業避止義務のことを忘れてしまいがちとなるため、常に頭に入れて気を抜かないようにしましょう。
職業選択の自由
国内では職業選択の自由という法律が定められています。これがあるために今の企業から退職した場合にはどのような企業を選ぶとしてもそれは本人の自由になるのです。それ以前に企業との関係は退職した時点で終わっている話となります。
このことを考えれば同業他社への転職は退職した後であれば特に問題がないと考える人もいるでしょう。しかし不条理に感じるかもしれませんが、そう簡単な話ではなく前の企業も損害が出るのは大打撃となるため訴訟するという行為に出ることがあるのです。
誓約書にサインをしていなければこうした訴訟もこちら側が有利となるため問題ないですが、それでも裁判で訴えられた事実は変わりません。この事実は転職へと影響してくることになり、時間を取られるのはもちろんマイナスの情報として同業他社へ入るケースも多いのです。
非常に残念な話ではありますが、このような事態になっているため「職業選択の自由」は結局機能していない話となってしまいます。そのため「退職すれば問題ない」「法ではこうなっているので問題ない」と考えて動かないようにしましょう。
同業他社への転職はどうか
競業避止義務の問題が解消された場合には同業他社への転職も選択肢として入れることかできます。営業の転職という点においてこの同業他社への転職はメリットがあると同時にデメリットも存在する行為です。
同業他社へ転職するメリット
分かりやすいメリットとしては他の業者へ転職するのに比べると採用されやすいという点です。同業他社へ転職するということはその仕事に対する経験は既に存在していることになり、即戦力として期待することができます。雇用する側としてはこれから育成するより即戦力を雇用した方が効率としてはいいのです。
もちろんこれは一定の実績と経験がある場合の話で、乏しい場合にはメリットにならないのでそこは理解しておきましょう。即戦力ということもあり企業にもよりますが、前の企業よりも年収アップといった待遇がよくなる可能性も高いです。もちろん確実ではないのでそこはしっかりと確認しておくようにしましょう。
営業という点においては同業他社の仕事でも以前の仕事で接していた顧客が再び顧客として接する可能性があります。相手が同じ顧客であればどのように接すればいいか理解しているため営業の仕事もやりやすくなるのです。最もこの「同じ顧客」というのはデメリットにもなる可能性がありますが…。
同業他社へ転職するデメリット
同じ仕事をしている会社でも経営方針を始めとした様々な環境の違いがあります。経験があるため即戦力にはなりますがその違いによって以前していた仕事の手腕が通用しなくなるというケースもあり得るのです。逆にそのやり方が仇となって上手く仕事をすることができないという場合もあります。
即戦力は待遇がよくなりますが、以前よりも規模が小さいところとなれば当然待遇がよくても結果的には以前より悪くなるケースもあるのです。このこともあり給料に対しての交渉をする際には企業の規模のことも考えてしなければいけません。
それと同じ仕事をしていたということもあり、面接では相応の厳しい質問が飛んでくる可能性が高いです。そのため面接の対策は未経験や他の経験者以上にする必要があります。自分の経験から適切な答えが出せるような論理を組み立てておくといいでしょう。
メリットのところで同じ顧客と接することがあることを挙げましたが、これは自分が苦手としているタイプの顧客と再び接してなくてはいけないというケースも存在します。それだけでなく同業他社へと転職をするということで見る人によっては「裏切り」と取るケースもあります。
そのため同業他社の社員として来ることで不信感や嫌悪感といったマイナスの印象を持つケースもあり得なくはないのです。マイナスの印象をもたれてしまえば営業での仕事も成功する確率が下がってしまいます。
結局「あり」なのか「なし」なのか?
結論を挙げるとなれば同業他社への転職は「なし」と考えた方がいいです。デメリット面はもちろんのこと、何より競業避止義務に違反して社会的にデメリットを受ける可能性があるという事実が大きな痛手となってしまいます。こうした訴訟は今後も記録に残るのでそれが恐ろしいところです。
この競業避止義務には期間が定められていて企業によっても異なりますが、それでも1年や2年といった年単位で定められるケースも珍しくありません。転職をするにおいて1年や2年もできないというのは長期間の空白が空くことになり、空白期間があるのは転職においても致命的な情報です。
更に空白があればブランクができてしまうので、実績と経験を活かすことが難しくなってしまいます。ブランクがあれば厳しいのは営業の仕事でも変わらないからです。下手にリスクを背負うのであれば、それを負わないために同業他社への転職を考えない方がいいです。
しかしこうしたケースは全体を考えてみてのケースであり、自分の立場が競業避止義務のことをほとんど考えなくていい場合には同業他社も選択として入れるのはいいでしょう。このことから転職を考える場合にはリスクがあるかどうかを考えることが大事となります。
転職にリスクがあるのは当たり前ですが、その転職行為以外で生じるリスクはできるだけ避けた方がいいのです。営業となれば人と人との関わりで生じるリスクは致命的になるのですから。
まとめ
企業というのは競争があって成長を遂げますが、その競争は転職において社員を縛る存在にもなりえます。営業は自分の実績で待遇が変わるところもあるためこうした競争による弊害が出てきてしまうのは仕方がないことです。そのため規則による縛りはある程度受け入れなければいけません。
しかし「仕方がない」だけで何もかも受け入れるのは間違いであり、不当であれば声を上げる必要はあります。それが通るかどうかは分かりませんが、自分の意志を表示することができないで営業の仕事をやっていくことはできません。こうした部分でも営業の仕事における「素質」というのは問われてくるのです。